怪物の解剖学

イノセンス』には多種多様な引用がされている。聖書や論語といったものからズバリ引用したものもあればアイディアを得たというものもある。この種村季弘氏の『怪物の解剖学』にそういうアイディアを借りたと思われるものが多数収められている。

『怪物の解剖学』にはユリイカで連載されたものをまとめたもので無機物から生命、つまり怪物を産み出すという事に付いて書かれたものである。『イノセンス』ではここからゴーレムの話、そしてデカルトのフランシーの話、そしてオートマタの話などを引用している。

特 にゴーレムに関しての記述はそのまま劇中で「emeth(真理)とmeth(彼ハ死セリ)」として触れられている通りである。フランシーヌの話は澁澤龍彦 氏の著作にも紹介されているがこの本ではもっと深く記述されておりデカルトという哲学者の人となりにも詳しく触れ数々の示唆を示している。オートマタ、自 動人形に関してもまた同様である。

押井守監督は各インタビューで「セリフは追わなくてもいい」という旨の発言をしてはいるがその裏側にあ るこういった世界観を知るという事は『イノセンス』の深い世界にも通じるものであることは簡単に見て取れるではないか。この本自体は絶版であり入手はなか なか困難だ、目に触れる機会はとても少ないであろう。

この本に書かれたものは澁澤龍彦氏の書かれたものに非常に近い関係のものも多い、思わず二人の書を比較しながら興味深く読み進めることで互いを補完し広範囲で眺めることが出来た。ぜひとも他の著作も読んでみたいものである。